2018年5月25日 (金)

改正民法621条は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」規定されていますが、具体的な責任分担がイメージできません。

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 国土交通省住宅局が公表しているガイドラインでは、次のような図を用いて修繕等の費用の負担者について説明しています。

A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものは、「経年変化」か、「通常損耗」であり、これらは賃貸借契約の性質上、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものである。したがって、賃借人はこれらを修繕等する義務を負わず、この場合の費用は賃貸人が負担することとなる。

A(+G):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものについては、上記のように、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものであり、賃借人は修繕等をする義務を負わないのであるから、まして建物価値を増大させるような修繕等(例えば、古くなった設備等を最新のものに取り替えるとか、居室をあたかも新築のような状態にするためにクリーニングを実施する等、Aに区分されるような建物価値の減少を補ってなお余りあるような修繕等)をする義務を負うことはない。したがって、この場合の費用についても賃貸人が負担することとなる。

B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものは、「故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等」を含むこともあり、もはや通常の使用により生ずる損耗とはいえない。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

A(+B):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられる。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

なお、これらの区分は、あくまで一般的な事例を想定したものであり、個々の事象においては、Aに区分されるようなものであっても、損耗の程度等により実体上Bまたはそれに近いものとして判断され、賃借人に原状回復義務が発生すると思われるものもある。したがって、こうした損耗の程度を考慮し、賃借人の負担割合等についてより詳細に決定することも可能と考えられる。

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2018年5月24日 (木)

民法改正後、賃貸借契約等で、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大することは可能ですか

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 改正民法621条で定める賃借人の原状回復義務の規定(賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない)は任意規定と解されています。

 このため、賃貸人と賃借人との間でこれと異なる特約を定め、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大することは、理論上は可能です。しかし、そのハードルは、決して低くはありません。

 この点について、最高裁判例では、「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」との判断が示されています。

 また、消費者契約法9条1項1号は、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効であること、同法10条で「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定されています。

 したがって、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大する旨の特約を設ける場合ためには、例えば家賃を低廉に設定する代わりに、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大するなどの必要性を明らかにして、明け渡しの際の原状回復の内容等を具体的に契約前に開示し、賃借人の十分な確認を得たうえで、双方の合意により契約事項として取り決める必要があります。

※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

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2018年5月23日 (水)

賃貸借契約終了後の原状回復について、民法改正で定められたことはありますか

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 改正民法621条は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定しました。

 実は、これまでは、賃貸借契約終了後の原状回復について民法にこれほど具体的な規定は置かれていませんでした。もっとも、平成17年の最高裁判決では、賃借人が通常の使用をしていても生じる損傷や劣化(自然損耗)については、賃借人は原則として原状回復費用を負担する義務はないと判断されましたから、裁判実務ではこの考えが定着しています。なお、この判例では、例外的に、賃貸借契約等で、賃借人が負担すべき損傷の範囲が具体的かつ明確に定められている場合には賃借人が原状回復費用を負担する必要があると判断しています。

 今回の民法改正で上記のような具体的な規定が設けられましたが、これは、それまでの最高裁判例等を踏まえて原状回復費用の負担のルールを明確にしたということができます。

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2018年5月22日 (火)

賃貸借契約中に修繕が必要となつた場合、誰が修繕費を負担しなければなりませんか

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 改正民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」と定めています。

 つまり、原則として賃貸人が修繕義務を負うが、賃借人の責任で修繕が必要となった場合には賃貸人は修繕義務を負わないということです。

 これまでは、この点について明確な規定はありませんでしたが、民法改正により規定が設けられました。

 したがって、賃貸人の立場から言えば、修繕が必要となった場合には、どうして修繕が必要となったのか、その事情を賃借人から説明してもらうことが必要となります。そして、それが専ら賃借人の責任によるものであれば、賃貸人は修繕義務を負わないということになります。

 そして、現実的な対応としては、修繕の負担について修繕をする前に充分協議したうえで勧めていくことが必要であると考えられます。

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2018年5月21日 (月)

賃貸借契約継続中に、賃借人から敷金を滞納家賃に充当するように請求することはできますか

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 できません。賃借人は、賃貸借契約にもとづいて賃料を支払う義務があります。賃借人から敷金を滞納家賃に充当するように請求することはできません。

 逆に、賃貸借契約継続中に、賃貸人から、敷金を滞納家賃に充当することはできます。その場合には、賃借人に対して充当した金額を敷金として再度預けるように請求することができます。

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«民法改正後、敷金の返還時期を、「賃貸物の返還を受けたとき」ではなく、「賃貸物の返還を受けた後1ケ月後」とか、「敷金の半額を控除して返還する」などと定めることは可能でしょうか