ところで、「おまとめローン」に関する別の側面の問題関心として、司法書士が登記代理人として関与している実態がある。すなわち、おまとめローンの融資に際し、司法書士が、債務者の自宅等に対する根抵当権設定等の登記申請手続きの代理業務を受任しているのである。
そこで、まず、登記代理人としてどのような責務(義務と倫理)が要請させているのか、おまとめローンに関連して検討してみることとする。
(1)受任の可否
まず、司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならないとされており(司法書士法2条)、その制度趣旨は、登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もって国民の権利の保護に寄与することを目的としている(同法1条)。さらに、司法書士は、その使命が、国民の権利の擁護と公正な社会の実現にあることを自覚し、その達成に努めるものとされ(司法書士倫理1条)、信義に基づき、公正かつ誠実に職務を行わなければならない(同2条)。
したがって、おまとめローンに関する登記手続きの依頼があった場合には、司法書士は、公正な立場で、究極的には国民の権利を保護することを目的として行動することが要請されている。
さらに、司法書士は、依頼の趣旨を実現するために、的確な法律判断に基づき、説明及び助言をしなければならず(同9条)、違法若しくは不正な行為を助長してはならない(同15条)。加えて、司法書士は、依頼の趣旨が、その目的又は手段若しくは方法において不正の疑いがある場合には、事件を受任してはならないものとされ(同25条)、受任した事件に関し、相手方に代理人がないときは、その無知又は誤解に乗じて不当に不利益に陥れてはならないものとされている(同40条1項)。
そのため、おまとめローンに関する担保設定の被担保債権が、利息制限法所定の利率を超過する高利のものである場合には、司法書士は、当該被担保債権が違法であり、法の保護に値しないものであること、当該債務を担保するための登記手続は不正なものであり、債務者を不利益に陥らせるおそれのあるものであることから、当該登記手続を受任してはならないのである。
なお、特別法により定められている利息が利息制限法所定の率を超える場合においては、当該利率を利息の定めとして、抵当権設定の登記をすることができる旨の登記先例(8)があるが、これは、登記実行の可否について回答されたものであり、司法書士の受任の可否について回答されたものではないことに留意すべきである。むしろ、利息制限法を超過する利率を利息制限法の上限利率に置き換えて登記を申請する行為は、事実と異なる登記原因証明情報を提供することに他ならず、当該所為は、不動産登記法61条(登記原因証明情報の提供)の趣旨に反し、また、司法書士法2条、司法書士倫理54条にも反することとなる。
また、根抵当権の登記に関しては、個々の被担保債権の内容そのものは登記に反映されることはないが、「おまとめローン」に関する根抵当権設定の登記は特定の司法書士が反復継続して受任しているという実態があり、そうであるならば、当該債権者の融資条件が利息制限法を超過したものであるか否かは、当該司法書士が経験則として周知している筈である。したがって、当事者の意思の確認の一環として、被担保債権に、法の保護に値しない利息制限法の上限利率を超過した債権が含まれることがあるのかを確認すべき義務があるものと考えられる。そして、上記のような債権が被担保債権に含まれるということであれば、やはり、当該登記手続を受任してはならないと考えられる。
(2)債務者に対する助言の義務
司法書士は、登記手続を受任した場合には、依頼者の意思を尊重し、権利の保護を図るとともに、紛争の発生の防止に努めなければならず(司法書士倫理52条)、登記手続を受任し又は相談に応じる場合には、当事者間の公平を確保するように努めなければならない(同53条1項)。また、司法書士は、前述の場合においては、必要な情報を開示し、助言する等、後見的な役割を果たすように努めなければならないとされている(同53条2項)。
おまとめローンの融資自体は、利息制限法の上限利率を超過するものとそうではないものがあるが、おまとめの対象となる個別の既存債務の圧倒的多数は消費者金融の違法な高金利が付されたものである。おまとめローンは、銀行、貸金業者ともに様々なネーミングで商品化しているが、こうしたおまとめローンの担保設定を反復継続して受任している司法書士は、当該商品がどのような目的の融資であるのか容易に判別できる筈である。つまり、債務者が「おまとめローン」の融資を受ける目的が既存の債務を一本化して利息についても低減化を図るものであることについて司法書士は了知していると言える。さらに、債務者は、常に債務の減少を望んでいるものであるが、既存の消費者金融等の債務が違法な利息が付されたものであり、本来、支払う必要のない金額も含まれていることを知らない。一方、法律専門職である司法書士は、既存の消費者金融の債務が、利息制限法で引直計算をすれば大幅に減少し、場合によっては何ら支払う必要性もないことを知っている。
そうすると、おまとめローンの登記手続を受任した司法書士は、債務者が知らないであろう上記の情報を債務者に開示し、助言するなど、後見的な役割を負っていると言えるのではないか。そして、これは、登記手続に関する当事者の「意思の確認」に当然に含まれるものとも考えられ、司法書士の職責であるとも考えられる。
上記の理が登記手続に関する司法書士の直接の義務ではないとしても、本来支払う必要のない債務を債務者に支払わせることにより過払金が発生することが明らかであり、そこで新たな法律紛争を惹起させることになる。司法書士制度が紛争の発生を未然に防止し、国民の利益を保護するものであることに鑑みれば、上記のように、債務者が漫然と約定利息を支払う行為を黙認することは、司法書士制度に著しく反するものとならないか、という疑問に突き当たる。
仮に、おまとめローンを被担保債権とする根抵当権設定の登記を登記権利者と登記義務者双方から受任する際に、前述のような実質的な意思確認をすることを想定すると、登記を委任しようとする債務者に対し、「今まさに返済しようとしている債務は法的保護に値するものではないから利息制限法で引直計算をする必要がある」ということを説明することになる。しかも、その説明は債務者がその本質を理解できるようにしなければならず、一応の説明だけでは登記代理の委任契約上の債務不履行となる可能性も考えられる(9)。しかし、債務者がこれに応諾し、取引履歴の調査及び利息制限法引直計算を行うこととなった場合には、即日の融資の実行は不可能となり、司法書士の債務者に対する説明・助言が、一方でおまとめローン債権者に対する背任行為になるとも考えられる。
そもそも、一人の司法書士が、おまとめローンの担保設定のような法律問題を内在する取引に関し、登記権利者と登記義務者の双方から登記を受任すること自体、再考されなければならないと考えられる。
(9)大阪地判昭和63年5月25日判決(判時1316号107頁)では、法律上、取引上の常識を説明し、そのままの成行きで権利関係を確定することについての危険性を説明、助言しなかったことについて債務不履行があったと認定している。なお、この事案において、被告司法書士は一応の説明はしているが、裁判所は、その意味が理解できるように説明すべきであるとしている。
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