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2007年8月 2日 (木)

中間省略登記問題について(講演録)

7月に、全日不動産協会静岡県支部研修会で行った講演の記録です。

 ただいまご紹介いただきました、司法書士の古橋清二でございます。日頃は、皆様方に大変お世話になっております。まことにありがとうございます。

 不動産登記制度は、平成17年に大幅な改正が行われまして、私どもも大きな影響を受けているわけですが、皆様方におかれましても、様々な面でご苦労をされていることと思います。とりわけ、今年中には、県内の全ての法務局がオンライン庁に指定されることとなっておりますので、オンライン庁指定後は、いわゆる権利証が発行されなくなり、その代替として、登記識別情報が発行されるという、時代の大きな転換点に立っていると言っても過言ではありません。

 そうした変化の中で、本日のテーマであります中間省略登記の問題も皆様を悩ませている大きな問題のひとつであろうかと思います。中間省略登記の問題は、ここ半年程度で大きく議論が展開しております。本日は、1時間という時間ではありますが、中間省略登記の問題について、若干の解説を試みたいと考えております。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 さて、今日、お話しさせていただく内容ですが、画面に出ているような順番でお話しさせていただこうと考えております。

 まず、中間省略登記とは何か、というお話をさせていただいたうえで、平成17年の不動産登記法改正前には、実務はどのように扱われていたのかをお話ししたいと思います。

 そして、なぜ、中間省略登記について議論が沸騰することになったのかについて、「不動産登記法改正のインパクト」というところでお話しさせていただきたいと思います。

 その後、中間省略登記について、特に不動産業界から、これを認めるべきだという議論が巻き起こってくるわけですが、平成18年12月21日に法務省から出された回答をご紹介したいと思います。

 この回答の中で、中間省略登記の「代替」という言葉が適切かどうかわかりませんが、「第三者のためにする契約」という手法と、「買主の地位の譲渡」という手法により、登記が可能であるという回答がなされておりますので、これらについて、解説したいと思います。

 こうした動きを受け、宅地建物取引業法施行規則についても改正の動きがありましたので、これもご紹介しておくことといたします。

 そして、最後に、こうした、 「第三者のためにする契約」や、「買主の地位の譲渡」という手法を利用する場合に、実務的に注意しなければならない点について、お話ししたいと思います。

 まず、最初に、中間省略登記とは何か、というお話でございます。

 ご存知のとおり、民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところにしたがい、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定しています。

 不動産登記法は、この民法177条の要請にこたえるために不動産登記制度を定めております。

 こうした、民法の規定や不動産登記制度の目的からすれば、不動産登記制度においては、権利の得喪及び変更の過程・態様が正確に登記に反映されるべきことが要請されていると考えられます。

 したがって、たとえば、所有権が甲から乙、乙から丙と順次移転した場合には、所有権の移転登記についても甲から乙、乙から丙と、実体上の権利変動の過程を正確に反映させて行われる必要があります。

 これを、甲から乙への所有権の移転の登記を省略して甲から丙へ直接所有権の移転の登記をする、これが中間省略登記といわれているところですが、これは、不動産登記制度の要請に反するものとして、法令の規定により認められている場合又は確定判決による登記の申請の場合を除いて、従来から認められていません。

 一方、中間省略登記についての裁判例は多数存在するわけですが、結論としては、関係者の同意や、中間者の正当な利益を損ねない限り有効であるという結論で、ほぼ一致しております。

 ここではふたつの判例をご紹介しておきますが、大阪高裁昭和39年5月22日判決では、不動産の所有権が甲→乙→丙と移転した場合に、登記名義が依然として甲にある場合には、丙が甲に対し、直接自己に対して移転登記を請求することは、甲及び乙の同意のない限り、許されないとしています。

 つまり、丙は、甲に対して登記請求権はないけれども、この判例を逆読みすれば、甲、乙の同意があれば、丙は、甲に対し、直接自己に所有権を移転するように請求することができる、と言っているわけです。

 また、最高裁昭和44年5月2日判決では、中間省略登記が中間者の同意なしになされても、この登記が現実の実体関係に合致しているときは、中間者は、正当な利益を有しない限り中間省略登記の抹消を求めることができないとしています。ここで、「現実の実体関係に合致している」という意味は、登記の過程が中間省略登記によりなされたとしても、現在の所有権が最終取得者である丙にあるという意味で、登記と現実が合致している、という意味であります。

 こうした裁判例を踏まえ、平成17年の不動産登記法改正前は、現実に、中間省略登記が申請されていました。平成17年改正前の不動産登記法では、登記の申請に際し、登記原因を証する書面を提出することができない場合には、申請書副本、これは、登記申請書と同じものという意味ですが、これを提出すれば足りるとされていましたから、たとえば、甲から丙への所有権の移転の登記が申請された場合に、登記原因を証する書面に代えて申請書副本が提出された場合には、実際には、その原因となる契約に、甲と丙の他に乙が関与していたとしても、登記官としては、乙が関与していた事実や、甲乙丙の三者間で締結された契約の内容を知ることができませんでした。

 したがって、登記官は、申請どおりに、甲から丙への所有権の移転登記を実行するしかありませんでした。

 ところが、平成17年施行の改正不動産登記法では、権利に関する登記の申請にあたっては、登記原因証明情報を必要的に登記所に提出しなければならないとして、登記の真正を確保するために、登記官が登記原因についての審査を行うことを制度的に担保しました。

 したがって、たとえば、登記申請書と併せて提出された登記原因証明情報によれば、実体上、甲から乙、乙から丙へと所有権が移転していることが認められるにもかかわらず、申請書には、甲から丙への直接の所有権の移転の登記を申請する旨が記載されている場合には、実体上の権利変動と、申請に係る登記の内容が合致せず、権利の得喪及び変更の過程や態様を正確に登記に反映すべきとの不動産登記制度の要請に反するものとして、却下すべきことになるわけです。

 そこで、後ほど説明いたしますように、「第三者のためにする契約」や「買主の地位の譲渡」という方式で、甲から丙に所有権を移転する登記申請が行われた場合に、どのような登記原因証明情報を添付すべきか、また、その登記申請が受理されるのかについて、規制改革・民間解放推進会議住宅・土地ワーキンググループから法務省に照会がされ、これに対する回答がなされたわけです。

 平成18年12月21日付法務省回答は、「甲を登記義務者、丙を登記権利者とし、別紙1又は別紙2の登記原因証明情報を提供して行われた甲から丙への所有権の移転の登記の申請は、他に却下事由が存在しない限り、いずれも受理されるものと考えて差し支えないか、照会します。」との照会に対し、「いずれも貴見のとおりと考えます。」と回答されていますが、別紙1については「第三者のためにする契約」、別紙2については「買主の地位の譲渡」の方式になっております。

 お手元に、この回答を配布してありますので、その中の別紙1と別紙2をご覧になっていただきたいと思います。

 まず、別紙1は「第三者のためにする契約」という方式で作成された登記原因証明情報です。

  「第三者のためにする契約」とは、民法537条で、「契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する」と規定されております。

 この契約により第三者が取得するのは、一般的には債権であるとされていますが、判例によれば、第三者に所有権のような物権を取得させる契約も有効であるとされています。

 したがって、別紙1に記載されているように、第三者に所有権を取得させる甲乙間の契約も有効であると考えられます。

 別紙1では、売主甲と買主乙との間で、「乙は、売買代金全額の支払いまでに所有権の移転先となる者を指定し、甲は、乙の指定する者に対し、乙の指定及び売買代金全額の支払いを条件に所有権を直接移転する」という特約のある売買契約が締結されています。

 そして、この特約にしたがって、乙は、所有権の移転先として丙を指定し、所有権の移転先として指定された丙が甲に対して民法537条2項にもとづく受益の意思表示をするとともに、乙が甲に対して売買代金全額を支払ったことから、特約に従って、甲から丙に直接所有権が移転したとされています。

 なお、仮に、乙が甲との売買契約の締結と同時に甲の売買代金の全額を支払っていた場合でも、特約として、「甲は、本件不動産の所有権を、乙の指定する者に対し、乙の指定を条件として直接移転する」という特約があれば、乙が丙を指定することにより甲から丙へ直接所有権が移転することになります。

 したがって、この場合についても、実体上、甲から丙へ直接所有権が移転することになります。

 ところで、このような形で甲から丙に直接所有権が移転する場合には、その前提として、乙と丙との間で、たとえば「乙は、甲との間の第三者のためにする契約を締結しており、乙の指定する者に所有権を移転させるという契約者の立場にあって、それを前提として、乙は、丙を所有権の取得者として指定する」というような契約が締結されている筈です。そして、その契約には、何らかの対価、通常は、甲乙間の売買代金を基準に定められた対価になると思われますが、それも定められている筈です。ここでは、その契約を、とりあえず「他人物売買契約」と呼ぶことにしますが、これにつきましては、後ほど、注意すべき点をお話ししたいと思います。

 次に、別紙2の登記原因証明情報をご覧いただきたいと思います。これは、買主乙の地位を丙へ譲渡した場合における、売主甲から買主の地位の譲受人丙への直接の所有権移転登記の例です。

 買主の地位の譲渡とは、売買契約の当事者である買主の地位の承継を目的とする、契約上の地位の譲渡であるということができます。

 契約上の地位の譲渡は、甲乙丙の三当事者の間の契約で行うことができるのは当然ですが、買主乙と譲受人丙との二当事者の間だけでもすることができるとされています。ただし、この場合には、売主甲の同意を必要とするというのが判例です。

 契約上の地位の譲渡が有効に行われた場合には、その地位の譲渡を受けた者は、契約当事者としての地位を承継します。すなわち、乙が買主の立場で有していた債権、債務、解除権、取消権等をすべて承継することとなります。

 別紙2を見てみますと、売主甲と買主乙との間で、売買代金完済時に所有権が乙に移転するという特約がある売買契約が締結され、その後、買主乙は、丙との間で、売買契約における買主としての地位を丙に売買する旨の譲渡契約が締結され、その譲渡契約について甲から承諾を得ていることがわかります。

 乙丙間の買主の地位の譲渡契約は、乙から甲への売買代金の支払いが完了する前に締結されたものですから、丙が買主としての地位を承継した時点では、不動産の所有権は甲に留保されていたことになります。

 したがって、乙丙間の買主の地位の譲渡契約により、丙は、乙の有していた甲に対する代金支払債務や所有権移転請求権を承継していることになり、丙が甲に対して売買代金全額を支払った時点で不動産の所有権が甲から丙に直接移転することになります。

 以上見てきましたように、「第三者のためにする契約」という方法であっても、「買主の地位の譲渡」という方法であっても、甲から丙に直接所有権を移転させることは可能であり、登記手続きにおいても直接所有権移転登記をすることに問題はありません。

 実は、もうお気づきかと思いますが、こうした方法は、中間省略登記ではありません。中間者の乙は、いずれの方法においても所有権を取得してはいないのです。したがって、結論としては、「中間省略登記は、従来どおり認められない。しかし、中間省略登記を回避して、甲から丙に直接所有権移転登記をする方法はある」ということが、この度の通達で再確認された、ということができると思います。

 さて、では、こうした中間省略登記の代替的手法が宅地建物業法からみて、問題がないかということです。

 宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者が、自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約を締結することを制限しています。

 具体的には、33条の2を見てみますと、「宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。」としています。ただし、例外として、「宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令で定めるとき」などはこの限りでない、としております。

 この、国土交通省令というのは宅地建物取引業法施行規則のことを言いますが、施行規則15条の6の規定を見てみますと、たとえば、区画整理の保留地を売買の対象とする場合のように、宅地建物取引業者がその権利を取得することが確実で、顧客の保護に欠けることがないような場合に限って例外扱いをいいということになっています。後ほどご説明いたしますように、実は、この規定が、今月10日に改正されておりますが、改正前においては、中間者である宅地建物取引業者が、未だ所有権を取得しない状態で、第三者と「他人物売買契約」を締結することは、宅地建物取引業法違反になったのではないか、考えられます。また、宅地建物取引業者が買主として売買契約を締結した場合に、その所有権を取得していない状態で買主の地位を譲渡する場合にも、同様の結論になっていたのではないかと思われます。

 そこで、国土交通省では、この例外規定である宅地建物取引業法施行規則15条の6に、区画整理の場合の保留地などの規定に加え、「宅地又は建物について、宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約であって当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約するものを締結しているとき」もその例外として認めようという動きになっております。

 つまり、もともとの売買契約が「第三者のためにする契約」である場合には、買主である宅地建物取引業者がその不動産の所有権を取得していない場合であっても、宅地建物取引業者が他人物売買契約を締結することを認めようということです。

 さて、こうしたことから、「第三者のためにする契約」という方式が理論的にも使えるようになり、宅地建物取引業法上も手当がされて、言ってみれば、これまでの中間省略登記に代替するような方法ができつつあるということになるわけです。しかし、皆様方が知恵を出していただかなければならないのは、本当は、これからではないかと考えています。

 今日の段階では、私が気がついたいくつかのポイントをお話しさせていただきたいと思いますので、皆様方には、適正な取引方法の確立といった面から、また、不動産取引に関与する売主や買主の保護といった観点から、十分にご検討いただきたいと思います。

 なお、これからの話は「第三者のためにする契約」を中心にお話しさせていただくことにして、「買主の地位の譲渡」についてはあまり言及しないつもりです。なぜなら、「買主の地位の譲渡」の場合には、中間者である乙は契約関係から離脱してしまうわけですから、結局のところ、甲と丙との直接の売買契約になります。したがって、それほど複雑な法律問題というのは起こらないわけです。したがって、これからのお話は、「第三者のためにする契約」を念頭に置いてお聞きいただければさいわいです。

 私が気がついた実務上の注意点は、この4つであります。

 まず、第一番目に、「中間者は自己を受益者に指定できるか」ということです。つまり、まだ、最終購入者が決まっていない段階で、宅地建物取引業者が中間者として「第三者のためにする契約」を締結したとします。一般的に、この契約には、中間者は「いついつまでに受益者を指定する」といった期限がもうけられると思いますが、その期限間近になっても受益者が決まらないというケースもあると思います。そのような場合、中間者が、自己を買主として指定できるか、という問題です。

 結論から言いますと、「それは問題ない」ということになりますし、今回の改正法では、むしろ、受益者として宅地建物取引業者が指定する者には、当該宅地建物取引業者を含む場合でなければならないと解釈できます。

 そういたしますと、買主を宅地建物取引業者として契約した「第三者のためにする契約」がなされ、最終的に、受益者、つまりユーザーが見つからない場合には、その宅地建物取引業者を受益者として自ら指定して、自らその不動産の所有権を取得するということになります。こうすることによって、売主の立場から見れば、いつまでたってもユーザーが見つからないから売買代金の決済が行われない、されど、契約を解除すれば様々なトラブルになってしまう、というような心配がなくなるわけです。

 つまり、受益者には当該宅地建物取引業者を含む場合でなければならないとされたのは、消費者保護の観点からであると考えられます。

 次の問題点は、「受益の意思表示を中間者が代理して受領できるか」ということです。どういうことかというと、受益の意思表示自体は受益者が行うものですが、この意思表示は、原則として売主に向けで行われます。しかし、売主が一般の消費者であることを想定すると、いきなり知らない人から受益の意思表示が届いたとしても、それが法的にどのようなことなのかわからないと思います。もっとも、実際には、受益の意思表示を中間者である宅地建物取引業者が預かって、これを買主に届けるということになろうか思いますので、そうした心配は無用なのかもしれません。しかし、その場合、受益の意思表示の効果は、あくまでも、その意思表示が売主に到達した時に生じることになります。

 ここにおける問題提起は、そうした意思表示を受領する権限について、中間者である宅地建物取引業者が委任を受けて、代理受領することができるか、という問題です。

 結論としては、法理論的には、売り主から委任を受けているのであれば何ら問題ないという結論になりますし、その場合には、代理人である宅地建物取引業者が意思表示を受領したときに、受益の効果が発生することになります。

 しかし、ここでお考えいただきたいのは、この意思表示を代理人が受領することによって法的効果が生じることになりますから、それによって、売主はもちろん、中間者である宅地建物取引業者についても、契約の完結に向けて、おおいに意義のある法律行為であるということができるということです。つまり、委任による代理人というのは、あくまでも本人である売主の利益を最大限に尊重して行動することが求められるわけですが、自分自身にも法律的な利益が生じることになるわけですから、言ってみれば利益が相反する場合が出てくることもあり得るのではないかと考えています。

 では、どういう場合に利益が相反することになるのかということですが、現段階では、明確に申し上げることはできません。しかし、受益の意思表示を代理して受領するということになると、そうした微妙な問題が出てくる可能性もありますし、宅地建物取引業者のとしての説明義務、注意義務の観点からも、受益の意思表示は、代理人として受領するのではなく、その意思表示を売り主にお届けして、十分な説明を行うというのがよろしいのではないかと考えています。

 3番目の問題と4番目の問題は、ある意味で共通的な問題です。といいますのは、第三者のためにする契約の当事者は甲と乙でありまして、受益者である丙は契約当事者ではないというところから派生してくる問題であるというところから出てくる問題関心であります。

 まず、「受益者は売主の中間者に対する抗弁にさらされる」ということです。たとえば、甲と乙とが「第三者のためにする契約」としてある不動産を2000万円で売買する契約を締結したとします。所有権は、乙の指定する者に移転するという契約です。その後、乙と丙とは他人物売買契約としてその不動産の所有権取得者を丙に指定する契約を結んだとします。その対価は3000万円であったします。

 そこで、丙は、甲に対し3000万円を支払って指定をしてもらったわけですが、乙何らかの事情で甲に2000万円の支払いを拒んだ場合、甲としては、丙に対する所有権移転を当然拒否することになります。

 これが、甲と乙との単純な売買契約であれば、契約に定められた条件が整わない限り、乙は甲に対し売買代金を支払うことはしないと思いますし、甲も、売買代金の支払いがない限り所有権の移転に応じないものと思います。ところが、先ほど述べた場合には、丙は乙との契約条項にしたがって既に3000万円を支払っているにもかかわらず所有権を取得することができないということになります。

 では、このような事態を未然に防ぐためにはどのようにすればいいのかということですが、ここで重要になってくるのは乙と丙との間で締結される「他人物売買契約」にどのような内容を取り込むか、ということです。少なくとも、丙が乙に対して3000万円、あるいは3000万円の残金を支払うのは、甲から所有権を取得するとの引き換えに支払うとしておかなければ、丙が不測の損害を被ることになってしまいます。まず、この点に注意が必要だと思います。

 次の「受益者は、解除権や取消権を持たない」という問題です。この問題も、丙は、甲と乙との間で締結された「第三者のためにする契約」の契約当事者ではない、ということから発生する問題です。

 仮に、売買物件に瑕疵があって、その瑕疵のためにその物件を使用することができないということになりますと、甲と乙との単純な売買であれば、乙は、売買契約を解除することができます。また、甲と乙との売買契約が甲の詐欺的な行為によって行われた場合には、乙は、民法の規定によってその契約を取り消すことができます。なぜなら、乙は契約当事者であるからです。

 ところが、第三者のためにする契約によって、丙が所有権を取得した場合、丙は契約当事者ではありませんから契約を解除したり取り消したりすることはできません。したがって、丙としては、乙に対し、契約解除や取り消しをするように求めることができるだけです。

 したがって、このような事態を防止するために、丙が解除や取り消しができるように契約条項に盛り込んでおく必要があると思われます。では、どの契約に、どのように盛り込むかということですが、たとえば、「第三者のためにする契約」の中に、「丙は、乙の解除権、取消権その他本契約から乙に生ずる一切の請求権を乙に代位して行使することができる」というような規定をもうけておくことが考えられます。また、それと同時に、「他人物売買契約」にも同様の規定を設けるとともに、そのような場合の乙と丙との間の清算に関する条項も設けておく必要があると思われます。

 以上のように、「第三者のためにする契約」の方式を利用するのであれば、三者間の複雑な法律関係を明確に契約に盛り込んでおく必要があると思われますので、みなさんで十分研究していただきたいと思います。

 最後に、 今回の一連の動きを法律家はどのように見ているか、ということをお話ししておきたいと思います。法律家は、今回の動きを非常に厳しい目で見ています。ここに、登記関係の法律雑誌がありますが、この中で、最高裁の判事までやられた方が論文を寄せていまして、言ってみれば、「不動産業界のエゴである」というような痛烈な批判をしております。

 こうした見方がされているなかで、不動産取引に事故が起きてしまった場合には「それ見たことか」ということになってしまいますので、そういうことがないように、十分に研究・研修していただきたいと思います。

 以上、非常に雑駁な話でしたが、私の話はこれで終わりにしたいと思います。ご静聴、ありがとうございました。

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コメント

 拝読いたしました。
 第三者のためにする契約+他人物売買の場合について、思いついた点を以下に指摘させていただきます。

・第1の契約で移転先が全く決まっていない場合、代金決済を先にする(売主への資金提供を優先し、業者がリスクを負う)
・業法規則で「業者を含む場合に限る」とした理由は、「業者が取得できることが明らかな場合で国交省令で定めるとき」とあり、業者の取得可能性が除外規定の実質的要件だから
・民法が受益の意思表示を必要とする趣旨は、勝手に権利を取得させられないということなので、代理人が受領することでも十分趣旨を達することができる(受益を拒絶できるようになっていればよい)
・受益の意思表示の受領の代理人は、決まった内容の意思表示を受けることしかできないので、利益相反と無関係(明確に言えなくて当然)
・むしろ、受益の意思表示を代理して受けることで、A→Cの所有権の移転時期を、CのBに対する代金支払時にすることができるメリットがある(その場にいないAに後日会って直接言うのでは取得時期が遅れるし、Bが使者となってもいつ意思表示がAに到達するか分からないのではCは怖い)
・CにAB間の契約の取消権・解除権まで与えることは不要(私には理解不能。CがAB間の契約を取り消してCにどんなメリットがあるでしょうか。ABは意思に反してCに取消しなどをされてもよいのでしょうか)。物件に瑕疵がありCが契約の目的を達することができないときは、BC間の売買契約で瑕疵担保責任を追及し、契約を解除するなどで十分
              思いつきは以上であります

投稿: けろろ隊長 | 2007年8月 3日 (金) 18時26分

けろろ隊長さん、ご意見ありがとうございます。
「第三者のためにする契約」と「他人物売買契約」(正確には民法上の他人物売買契約ではないと思いますが)の内容をじっくり詰めて考えてみないといけないでしょうね。
その際に、スムーズな取引と安全な取引の両方の要請をどのように反映させるのか、これから検討されていくのでしょうね。
受益の意思表示の受領代理については、ご指摘のように、Cが代理権を持っていた方がスムーズでしょうね。ただ、何か腑に落ちない「気持ち悪さ」みたいなものを感じまして問題提起させていただきました。
また、Cの解除権については、どうやってCを保護するのかアイデアは持っているのですが、不動産取引契約を作る立場にはありませんので具体的な言及はしませんでした。けろろ隊長さんの考え方もシンプルでいいと思います。
いずれにしても、登記のテクニックだけでなく、どのような契約条項にするのか、いろいろな角度から研究される必要があるのでは、と考えています。
またご意見ください。

投稿: 古橋清二 | 2007年8月 3日 (金) 19時16分

初めまして。
法律関係の仕事に従事しているものです。
このたび,中間省略登記の問題を色々調べるうちに先生の講演録に出会うことができました。
勉強不足で内容についてコメントすることができませんが,参考にさせて頂きたいと思います。
また不躾なお願いではありますが,講演中で紹介されていた元最高裁判事の方の論文が掲載されている雑誌名と号数をご教示願えないでしょうか。
よろしくお願いいたします。

投稿: takumy | 2007年11月15日 (木) 14時34分

こんにちわ。いつもお世話になります。
お尋ねの論文ですが、「登記インターネット」(民事法情報センター)の19年7月号だと思います。その前後の号は本棚に収まっていましたが、7月号がみつかりません。しかし、事務所か家の中のどこかにあると思います。
論者は、香川保一さんです。

投稿: 古橋清二 | 2007年11月15日 (木) 18時31分

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