« 2007年9月 | トップページ | 2007年11月 »

2007年10月

2007年10月15日 (月)

司法書士による多重債務問題への取組み その5(完)

5 現職教員への研修

 高校における法律教室の開催など、社会に出る前の学生に対して法律を教示する試みが浸透しつつあるが、わずか数時間の教育だけでこうした学生が金銭トラブルを未然に防ぐ能力を身につけた社会人になるものとは考えにくい。プログラムは、学習指導要領の見直しの内容を踏まえて、担当の全ての教師がこうした問題を教えることができるように、教員養成課程のカリキュラムに組み込むとともに、現職の教員への研修等を行うことを提唱し、研修については、必要に応じて、司法書士会等の関係団体の協力を仰ぐこととしている。この結果、教員が学生と接する中で日常的に金銭教育等を意識して教育現場に臨むことができれば、その効果は極めて大きなものとなろう。

 司法書士会としては、こうした金融庁の要請を各地域の教育委員会等に積極的に説明していく必要がある。また、教員養成過程のカリキュラムへの組み込みと現職教員への研修という全く新しい切り口からの方策を伴うものであるから、文部科学省に働きかけを行うなど、日本司法書士会連合会の果たす役割も重要なものとなろう。

6 成人への消費者教育

 成人への消費者教育について、現在は、地域の公民館や職場での講演会開催、ビデオテープの貸し出しなどが主流であると考えられる。こうした活動を自治体と連携してさらに充実させていくとともに、新たな活動として、ウェブ上のオンデマンドなどを活用して情報を発信し、市民がいつでもどこでも手軽に学習できるソフトを提供していくことも検討されるべきである。たとえば、新手の悪徳商法や振込め詐欺の手口など、新しい情報を市民に提供できるサイトの創設などは、すぐにでも着手できるであろう。こうした活動についても、日本司法書士会連合会を中心に行われる必要があろう。

7 おわりに

 以上、金融庁のプログラムを実現させるという観点から、司法書士が果たすべき役割を検討してみたが、具体的な提案ができた部分と抽象的に論ずることしかできなかった部分とが明確に分かれている。換言すれば、抽象的な提言に留まる部分は未だ司法書士が未着手又は実践不足な部分であるとも言える。また、それぞれの箇所において、個々の司法書士、単位司法書士会、日本司法書士会連合会の果たすべき役割も自ずと明らかとなってこよう。

 ともあれ、国を挙げて多重債務問題の解決にあたろうとしている今、既成概念にとらわれることなく新しい知恵を出し合ってそれを実践に繋げ、多重債務のない社会の実現を目指そうではないか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

司法書士による多重債務問題への取組み その4

4 多重債務者に対する事後的なフォローアップ

 プログラムは、債務整理等を行なった者について再び多重債務に陥らないように事後的なフォローアップを行うよう要請している。

 これを実行するためは、経済面、精神面等多方面にわたる配慮が必要であるが、多重債務の問題は、単に金銭的な困窮や家計崩壊の問題にとどまらず、家族関係の不和、家庭内暴力、いじめなど、多岐にわたる問題を引き起こしていることを忘れてはならない。そのような様々な問題に対し、私たち司法書士は必ずしも専門的な知識を持ちあわせているとは言えない。したがって、司法書士としての対応には限界があるが、少なくとも、そうした問題のシグナルをキャッチして、行政サービスや専門的機関のサービスを受けるよう助言することも必要である。

 表1は、静岡県司法書士会の有志が使用している「生活再建チェックリスト」である。これを用いて、相談者の債務整理以外の悩みを発見しようという試みである。実際に「生活再建チェックリスト」を利用してみると、その記入を契機として、相談者から、債務整理以外の生活上の問題も部分について相談を投げかけられることも多い。そうした相談を行政等のサービスに繋げていくことにより、生活再建の一助となることを期待している。

 また、行政サービスを効果的かつ有機的に受けられるためには、行政における各部局のネットワークも充実される必要があろう。

 図1は、滋賀県野洲市における各部局の連携図である。野洲市においては、職員(相談員)の奮闘により、市役所内において「多重債務を抱えた住民を救おう」という共通認識が醸成されており、他部局間との連携が行われている。こうした取り組みは、特別な予算が必要となるものではなく、職員(相談員)の熱意で成り立っており、実践例として参考となろう。

図1(省略)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

司法書士による多重債務問題への取組み その3

3 都道府県における多重債務者対策本部(又は同協議会)における司法書士の役割

 各都道府県における多重債務者対策本部は、筆者が把握している限り、平成19年9月現在、32の都府県で設立され、3道府県で設立が予定されている(設置状況については労働者福祉中央協議会のホームページ参照 http://www.rofuku.net/)。

多重債務対策本部は、都道府県庁の関係部署、警察、弁護士会・司法書士会、多重債務者支援団体などを中心に組織されているが、中には、財務事務所、教育委員会、市町村会なども巻き込んで組織されているところもある。しかしながら、その中でも、多重債務者救済の観点に立って従前から継続的に活動をしているのは、司法書士会、弁護士会、多重債務者支援団体であるから、各地の司法書士会がそれぞれ地元の多重債務者対策本部をリードしていく必要がある。多重債務者対策本部の当面の活動は、相談会の開催などが主なものとなろうが、司法書士会から多重債務者対策本部やその参加団体に相談会の開催や啓蒙活動等の事業を積極的に呼びかけていく必要がある。

また、プログラムは、多重債務者対策本部設立に関し、多重債務問題に積極的に取り組んでいる司法書士のリストアップを求めているが、このリストは、多重債務者対策本部のみならず市町村等の相談窓口でも活用されるものと考えられる。そうすると、行政の相談窓口から直接司法書士を紹介するツールになると考えられるため、各司法書士会は、このリストを早急に提出していく必要がある。

 なお、金融庁は、自治体の相談窓口で広く多重債務相談を受け入れることができるよう「多重債務者相談マニュアル」を作成しており、この活用を具体的に示すDVDも自治体に配布している。しかしながら、「多重債務者相談マニュアル」は大部なものであり、日常的に消費生活相談を行っている窓口は格別、それ以外の行政窓口でその趣旨を理解して十分に活用されるには相当の時間を要するものと考えられる。

そこで、日本司法書士会連合会では、行政の相談窓口において窓口担当者が多重債務相談を効果的・効率的に行うことができるよう、「多重債務者相談マニュアル」の趣旨を取り入れた「多重債務問題相談支援ツール」(Microsoft Power Pointソフトにより作成したもので、http://www.shiho-shoshi.or.jp/web/activities/consumer_problem/index.htmlからダウンロードすることができる)を提供しているので、各相談窓口で活用されることが期待される。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

司法書士による多重債務問題への取組み その2

2 司法書士による効率的・効果的かつ低コストの対応ができる体制構築

 プログラムにおいて司法書士に求められているのは、(1)効率的・効果的な対応ができる体制構築、(2)低コストの対応ができる体制構築、(3)相談サービスの質の確保、(4)出張相談の実施等、(5)標準的な費用の公表、である。

1)効率的・効果的な対応ができる体制構築

  現状、司法書士の相談体制としては、全国約130箇所に設けられた司法書士総合相談センター(以下、「相談センター」という。)が窓口となり得る。日本司法書士会連合会では、相談センターを全国300箇所にまで増設する目標を掲げている。しかし、平成19年7月に金融庁が示した「多重債務者相談マニュアル」(http://www.fsa.go.jp/policy/kashikin/index.html 参照)では、行政の相談窓口から直接特定の受任可能な司法書士にアクセスすることを想定している(プログラム2.(2)④でも、多重債務問題に積極的に取り組んでいる司法書士のリストアップを求めている)。なぜなら、そうでなければ、行政の相談窓口で相談センターを紹介され、相談センターから個々の司法書士を紹介されるとすると、都合3回の相談をしなければならないし、債務の返済で精神的に追いつめられている多重債務者にとっては、それは苦痛以外の何物でもないことは想像に難くないからである。したがって、多重債務者対策に限定すれば、相談センターの拡充よりも全国自治体の相談窓口と個々の司法書士の連携強化が急務である。そして、その連携強化とは、自治体の相談窓口から債務整理案件を紹介されるだけでなく、債務整理中又は債務整理後においても、相談結果を自治体窓口にフィードバックし、日々情報交換を行い、適切な行政サービスにバトンタッチしていくことが心掛けられなければならない。

2)低コストの対応ができる体制構築

 低コストの対応としては、低廉な司法書士報酬で法的サービスが受けられることと、特定調停の活用が考えられる。司法書士報酬は依頼者と司法書士との契約によって定まるものであり、その多寡について議論することはできないが、少なくとも、多重債務対策は国の急務な課題であること、多重債務者は金銭的余裕のないケースがほとんどであることなどを鑑みて、低廉な費用で依頼を受ける必要があり、また、報酬は分割支払いが可能な体制が求められる。さらに、法律扶助も積極的に活用されるべきである。

 一方で、司法書士の簡裁代理権取得によって任意整理が急増したことにより特定調停の申立件数が激減しているが、今一度、低コストかつ本人でも遂行可能な手続きである特定調停の活用についても検討されるべきである。具体的には、消費者金融との取引期間が2~3年と短く、月1回程度、合計3回程度裁判所に出頭することが可能であり、定期的収入などにより一定の返済原資確保の見込みがある場合には、費用が低廉な特定調停の活用が有益である。

もっとも、昨今は、特定調停の申立てに付随して破産申立並みの資料の提出が求めるために本人自ら申し立てすることが困難であると思われる裁判所も存在するが、書類作成業務により本人支援する方法も有効な手段として活用されるべきである。

3)相談サービスの質の確保

 低廉な費用で依頼を受けるからといって、相談サービスの質が低下してはならない。また、低廉な費用であるからといって司法書士の責任が軽減されることもない。この「質」とは、法的判断の「質」と、依頼者を経済的に再起させるという事実行為の「質」とがあると考えられる。

 前者の「質」は、常に新しい判例や事象を貪欲に吸収することで積み重ねられる。司法書士は、今日、債務整理の担い手として弁護士と同等に挙げられるようになったが、これは、前者の「質」が一定のレベルで向上したからであると思われる。これにもまして、今後は、後者の「質」が問われるだろう。

たとえば、既に一部で行われている任意整理等における弁済代行業務もそれに値する。弁済代行業務は依頼者と家計を見つめ直す契機を司法書士に与えてくれる。また、弁済代行業務を経験することによって、反射的に、前者の「質」が向上する。すなわち、実行可能性の高い具体的な弁済計画作成に寄与することになる。

さらに、債務整理問題以外の生活上の問題についても、行政や他の専門的機関と連携して、依頼者の生活再建に資する「質」の向上が必要である。

4)出張相談の実施等

 出張相談としては、現在、司法書士会等が実施主体として過疎地への出張相談等が実施されているが、今後は、行政と連携して、司法書士が市町村の臨時相談員となるなどして出張相談を行う形態を増加させるべきである。プログラムでは、行政の相談窓口の強化も謳われているが、そのような窓口において適切な相談を実施するためには相談員の資質の向上が不可欠である。司法書士が、行政窓口の相談員として市町村の相談員とペアで相談を受けることができれば、これに寄与することになろう。また、行政の相談窓口は市民の間で広く浸透しているものと考えられるから、司法書士会が臨時に出張相談をするよりもはるかに効率的であると考えられる。

5)標準的な費用の公表

 相談者にとって、司法書士報酬の額については大きな関心事のひとつである。また、行政の相談窓口で司法書士を紹介する場合にも、相談者に対し、司法書士報酬の目安を伝えられることが望ましい。

司法書士報酬については、司法書士会で基準を示したり指導をしたりすることは馴染まないが、行政の相談窓口が安心して司法書士を紹介したり、相談者が納得して司法書士に債務整理を依頼するためには、司法書士報酬の目安が明らかとなっていることが望ましい。そこで、ひとつの考え方として、法律扶助制度における報酬基準を行政に周知することが考えられる。もっとも、そうした周知が、個々の司法書士に対する事実上の報酬規制という実質を伴うことになると、独占禁止法上の問題も出てくるので注意を要する。

一方、司法書士は、受任にあたり、あらかじめ、依頼をしようとする者に対し、報酬額の算定の方法その他の報酬の基準を示さなければならないとされている(司法書士法施行規則22条)。したがって、受任に際して報酬体系を書面等により十分説明することはもとより、行政の相談窓口担当者とも、報酬について十分な意思疎通を図っておく必要があろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

司法書士による多重債務問題への取組み その1

1 はじめに

平成19 年4 月20 日に政府の多重債務者対策本部が決定した「多重債務問題改善プログラム」(金融庁ホームページhttp://www.fsa.go.jp/singi/tajusaimu/index.html#sankou 参照。以下、「プログラム」という。)では、平成18年の臨時国会において成立した改正貸金業法の完全施行に向けて、借り手側の対策として、特に現に多重債務状態に陥っている者に対し、債務整理や生活再建のための相談(カウンセリング)を行い、その上で、あくまで解決手段の一方法として、セーフティネット貸付けを提供するとともに、新たな多重債務者の発生予防のため、金融経済教育の強化を図ることを喫緊の課題として掲げている。

そして、その具体的な施策を関係省庁が十分連携の上、国、自治体及び関係団体が一体となって実行していくものとしている。このうち、司法書士に対しては、プログラム「2.丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の強化」の「(6) 弁護士・司法書士等による取組み」において、「① 相談者にとって弁護士・司法書士事務所を利用しやすくするよう、地方自治体の相談窓口やその他のカウンセリング主体において事実関係の整理等を丁寧に行った上で、弁護士・司法書士に紹介・誘導することにより、弁護士・司法書士による効率的・効果的かつ低コストの対応ができるような体制構築が各地域において行われることを、弁護士会・司法書士会、各地方自治体等に要請する」、「② 弁護士会、司法書士会においては、各弁護士・司法書士の相談サービスの質を確保するよう努めるとともに、弁護士・司法書士が少ない地域には出張相談を実施したり、利用した場合の標準的な費用の公表等を検討するよう要請する」としている。

また、プログラム中には、上記以外にも司法書士又は司法書士会に対する要請が規定されている。上記に重複しない範囲で取り上げると次のようなものである。

① 各都道府県において、都道府県庁の関係部署、都道府県警察、域内の弁護士会・司法書士会、多重債務者支援団体、その他関係団体で、「多重債務者対策本部(又は同協議会)」を設立し、都道府県内の多重債務者対策推進のために必要な協議を行うこと。その中で、特に、都道府県が弁護士会・司法書士会に対して、多重債務問題に積極的に取り組んでいる弁護士・司法書士のリストアップを求めること(プログラム2.(2)④)

② 多重債務に陥り、自己破産や債務整理等を行なった者については、再び多重債務に陥らないように、例えば、債務整理等を担当した弁護士や相談員等が、事後的なフォローアップを行うよう、弁護士会・司法書士会、各地方自治体等に要請する(プログラム2.(7)③)

③ 学習指導要領の見直しの内容を踏まえて、担当の全ての教師がこうした問題を教えることができるように、教員養成課程のカリキュラムに組み込むとともに、現職の教員への研修等を行う。研修については、必要に応じて、自治体や弁護士会・司法書士会等の関係団体の協力を仰ぐ(プログラム4.(2)④)

④ 成人への消費者教育については、消費者金融からの借金、クレジットカードによる借金、住宅ローン等も含めた問題について、学校教育同様、弁護士会・司法書士会などの関係団体や、自治体等による主体的な取組みを促す(プログラム4.(3)①)

 以上のように、プログラムでは、広く司法書士(会)に活動を要請している。そこで、本稿では、①司法書士による効率的・効果的かつ低コストの対応ができる体制構築、②都道府県における多重債務者対策本部(又は同協議会)における司法書士の役割、③多重債務者に対する事後的なフォローアップ、④現職教員への研修、⑤成人への消費者教育について、司法書士が果たすべき役割を検討してみたい。

 なお、筆者は日本司法書士会連合会多重債務問題対策本部の委員を拝命しているが、文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断りしておく。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年10月 9日 (火)

クレディア対策会議開催します

「crediakaigi.pdf」をダウンロード Photo

14日、静岡県司法書士会館でクレディア対策会議を開催します。対象は全国です。お申し込みは、早めに花田司法書士までお願いします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年10月 6日 (土)

貸金業者の民事再生でどうなる不当利得返還請求権、証券化された債権の対応

 表題の研修会が神奈川県司法書士会川崎支部で開催された。クレディアの貸付債権の3分の1が証券化されていると言われている中、この研修会を聞き逃すわけにはいかない。
 講師は、早稲田大学大学院商学研究科講師の大澤和人先生。先生は、講師のかわたら、多くの証券化に携わっており、法的分析のみならず、業界情報に非常に詳しい(証券化が本業で、そのかわたらで講師をしているのかもしれない)。
 講義は、民法上の債権譲渡の解説から始まった。たかが債権譲渡、されど債権譲渡である。「債権譲渡」と「地位の譲渡」との違いを明快に解説されていた。「債権譲渡」とは、債権者債務者間の契約関係はそのままにしておいて、そこから発生する債権を譲渡すること。「地位の譲渡地」とは、契約関係の当事者が変わってしまうこと。

 言われてみれば当たり前のことだが、今まで、そのように明確に峻別していただろうか。たとえば、ユニマットからアイク(現CFJ)への譲渡。以前、CFJは、ユニマットから債権譲渡を受けたものではあるが、仮に譲渡された時点で過払いになっていたとしても、債務まで引き受けたわけではないと主張していた。もっとも、いつのまにかそのような主張をしなくなったが、これは、「債権譲渡」ではなく「地位の譲渡」であるわけだ。もしも「債権譲渡」であるとすれば、その時点での債権はたしかに譲渡されたのかもしれないが、譲渡後もユニマットと顧客との間のリボ貸付契約はそのまま生きているのであり、顧客は、引き続いてユニマットと継続的に金銭消費貸借取引ができなければならない。そこでユニマットが「貸さない」と言ったら債務不履行である。
 しかし、これを「地位の譲渡」と考えれば、契約当事者はユニマットからアイクに変わったのであり、顧客の取引相手はアイクであるということが単純明快に説明できる。さらに、譲渡時までに発生した過払金についてもアイクが責任を負うということなる。
 最近、トライトの判決において「地位の譲渡」と認定されたケースがあるが、それが理論的に当然の帰結となるのである。

 さて、大澤先生の本題はそこではない。債権譲渡の解説は、単に講義の入口の前提問題にすぎない。本論は証券化の仕組みである。その内容を紹介できるほど僕自身が整理して理解していたわけではないので、ブログ上で講義の整理をするつもりはない。しかし、大澤先生の言いたかったことは、証券界を覗くためには民法典とは異質の法解釈を理解する必要があること、これを力説されていた。
 たとえば、貸金業法24条2項の通知。貸金業者から債権を譲り受けた者は、同法17条に規定する事項を記載した書面を債務者に通知しなければならない(譲受人の属性は貸金業者に限定されていない)。ところが、貸金債権の証券化のために行われる信託譲渡は、債権が移転したにもかかわらず24条2項通知が行われていない。なぜなら、これをいちいち通知していたら、債務者が大混乱に陥るからである(たとえば、家族に内緒で借り入れをしている者も多い。大混乱に陥ることは、静岡銀行の債権譲渡通知で実証済み)。また、債権譲渡の対抗要件の取得については債権譲渡特例法で簡易で定コストな方法が設けられているのに対し、24条2項通知についてはそのような方法が用意されておらず、手間とコストは膨大なものになる。
 そこで、証券界では、信託譲渡においては取立権は譲渡人に留保されているから24条2項の債権譲渡にはあたらないという解釈が確立していることから、信託譲渡においては24条2項通知は不要であるということになっているという。
 また、証券界独特の「真正売買」という定義についての理解も必要となる。「真正売買」とは、民法上の典型契約として定義された「売買」とは全く概念が異なる。証券化のスキーム全体を「真正売買」と言うらしい。証券界、投資業界が確立した共通の認識ということらしい。大澤先生は「真正」を「神聖」とも言う。触れてはいけないものとされていると、批判を込めているのだ。大澤先生が「神聖」と考えているわけではない。

 ところで、こうした講義がクレディアにどう繋がっていくかであるが、信託譲渡されたものは包括執行免脱(倒産隔離)される。だから、破産や再生の手続において、債権者は信託財産に手出しができない。そこを乗り越える手だてがあるのか、それが問題だ。

 貸付金額が100億を超えるような貸金業者のほとんどは、債権の証券化をしているという。これからの貸金業者倒産の時代を控え、債権流動化の理解は不可欠であることを痛感した。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年10月 2日 (火)

クレディアの再生申立は適正か?

クレディアの再生申立と、その手続きにはいろいろと疑問を感じるところがある。ここでは、その中でも最大の関心を持っている、クレディアにおける債権者の把握について考えてみたい。

私は、過払い債権とは、当事者の意思にかかわず当然に発生する法定債権であると考えている。サラ金問題に取り組む弁護士・司法書士は何の疑いもなくそう考えていると思われる。

ところが、貸金業経営者や貸金債権を売買している金融機関では、どうもそういう考え方ではないらしい。それは、顧客が「過払いだ」と主張して初めて権利が発生する(という言い方も正確ではないと思うが)、形成権のような権利と捉えているようだ。もっとも、そう考えなければ貸金債権の売買なんて怖くてできないだろう。

しかし、過払い等の裁判実務では、明らかに法定債権という考え方が支配している。また、形成権的な権利であるとすると、「悪意の受益者」で過払い発生時点から法定利息を請求できることにもならない。

ところで、法定債権であるとして、顧客が主張すると主張しないとを問わず過払い債権は存在すると考えるならば、眠れる過払い債権者であっても、再生債務者クレディアとしては再生申立にあたり、「債権者」として把握している必要があったと言えないだろうか。

クレディアは再生申立にあたり、3000名弱の過払い債権者を債権者一覧表に計上した。しかし、これは、現に過払い請求を受けている債権者だけだ(そういう意味では、まさに形成権的な権利としかとらえていないのではないか)。私は、現顧客だけで8万人程度の過払い債権者が存在すると予想している。また、取引を終了した過去の顧客60万人の多くは過払い債権者であると推定している。そうすると、債権者一覧表に計上された過払い債権者は全体の0.5パーセントにしかすぎない。

クレディアは、全顧客の取引履歴を利息制限法で計算し直すことはできないと言っている。コンピュータがそのような仕様になっていないというのだ。だから、過払い債権者を把握することはできないと言っている。

しかし、今のコンピュータ技術であれば、利率の変更などいとも簡単にできるのではなかろうか。一晩コンピュータを回して計算させればすむ話ではないだろうか。クレディアの社長は、債権者向け説明会で、「当社にはノウハウがある」「システムがある」と言っていた。金利をいろいろと調整してみて利益をシミュレーションすることなど日常的にやっていたのではないかと想像できる。

いずれにしても、再生申立にあたり、適正な債権者一覧表が提出されていなかったことにならないか(「適正」の定義を述べることはできないが、債権者のうち0.5パーセントしか載せていないわけだから「適正」とは言えないだろう)。

そうすると、民事再生規則14条1項3号違反であり、このままでは民事再生法174条2項1号により不認可事由に該当することにならないだろうか(法174条2項1号の「再生手続」については法2条4号に定義があり、これによれば、再生手続とは開始決定後の手続きのみならず申立行為についても「手続」であると解釈できる)。
法174条2項1号は「その不備を補正することができないものであるとき」に不認可の決定をするとしているから、反対解釈では、認可を得たければ不備を補正することは可能であるだろう。その不備の補正のために、クレディアは全顧客について利限計算して債権者を明らかにし、不備を補正する必要があるのではないだろうか。

また、このまま手続きが進んでしまったら、「債権者の一般の利益を害する」等、他の理由で再生計画案の不認可事由に該当することはないだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年9月 | トップページ | 2007年11月 »