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2012年7月 9日 (月)

債権の準占有者への預金の払い戻しは、いつまでも古典的な考え方でよいか

9月に、とある金融機関の職員に相続についての講義をすることになった。そこで、金融機関で想定される相続に関する問題を取り上げていきたいと思う。

9月1日、預金者Aの通帳及び印鑑を持参したAの長女Bに対し、預金全部である200万円を払い戻しました。その際、Aの免許証コピーとBの本人確認書類も徴求しました。ところが、2週間後、Aの長男Cが来店し、「Aは8月に死亡した。なぜBの払い戻しに応じたのか」と言っています。なお、Aさんが死亡していたという事実はCから初めて聞かされました。また、相続人はBとCの二人で、戸籍謄本は揃っているものとします。金融機関として、Bに対し、どのように対応したらいいでしょうか。

ⅰ 200万円を返してもらわなければならない。
ⅱ 200万円を返して貰う必要はない。
ⅲ 100万円を返してもらわなければならない。

ポイント
 「債権の準占有者への弁済」(民法478)の適用があるか否かを検討する必要があります。

(債権の準占有者に対する弁済)
第478条  債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

 つまり、Bに対する払い戻しについて金融機関が善意かつ無過失であれば払い戻しは有効ということになります。
 「善意」とは、無権利者であることを知らないということを言います。つまり、通帳と印鑑を持参したAが何らの権限もない者ということを知らなかったということです。通常、通帳と印鑑を持参していれば、代理権限があると推定すると思われますので、特別の事情のない限り、「善意」ということになると思われます。
 ただし、顧客が著名人でニュースなどで死亡を知っていた場合や、営業担当者が死亡の事実を把握していたような場合には「善意」ではないと判断されることも考えられますので、顧客死亡情報に接した場合には速やかに預金の入出金停止措置をとる必要があります。
 次に、「無過失」であることが要件となっていますが、過失は様々な場面において想定されますし、「善意」であると信じたことに過失がある場合も考えられます。

今後、金融機関の本人確認が形骸化してしまうと過失が認定される場合もありますので注意が必要です。
 以上により、原則として、Bに対しては「200万円を返して貰う必要はない。」ということになります。

Dsc_0251

本人確認について過失を認定した例
大阪高等裁判所 平成20年2月28日
「被控訴人は、本件パンフレット(本人確認法について全銀協が作成したパンフレット(解説者注))により、二〇〇万円を超える大口現金出金等には、法人の場合、登記簿謄本・抄本、印鑑登録証明書などの本人確認書類の提示のほか、併せて来店者の本人確認書類の提示を求めるなどと具体的かつ明確に記載した本件パンフレットを作成配布しているから、本人確認法の趣旨を超えて盗難通帳による被害防止の趣旨を含んでいるとの記載はないものの、特別の事情のないかぎり、本件払戻の際、被控訴人が来店者に運転免許証などの提示を求めるなどの本人確認の手続をとらなかった点につき、過失があったというべきであるし、その確認手続を不要とするような特別の事情を認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人の本件払戻については、過失があるといわざるをえない。
<中略>
 なお、念のため、被控訴人主張のとおり、本件パンフレットによっても、被控訴人に来店者の確認をする義務まではないとの見解のもとにおいて、本件払戻につき、被控訴人に過失があるか否かについて検討する。
<中略>
 本件口座が控訴人の営業に常時使用されていないため、悪用される可能性がかなりあると容易に思いつくはずであり、また、来店者が二七七万三二三〇円という高額の預金残高のほぼ全額の払戻をしようとしているのであるから、少なくとも、被控訴人の担当職員は、来店者に対して、控訴人の代表者本人か代理、代行の者であるかの確認をすべきであったというべきである。したがって、被控訴人の担当職員が、本件払戻の際、その来店者に対して本人か、代理、代行の者かの確認をして、格別、不審な態度が認められなかった場合には過失がないというべきであるが、その確認をしないで、本件払戻の手続に応じたことにつき、被控訴人は過失があるといわざるをえない。」

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コメント

( ゚皿゚)キーッ!!
本当にこの内容で,講義などしたのですか??
致命的な間違いが含まれていますよ。聞いているひとは混乱したと思いますよ。
(私のいた大学では,おそらくこの間違いだけで,もう1年になります。)

一応プロの実務家の方らしいですので,指摘はしません。自分で調べてください。
たとえば,問題研究要件事実を何度何度も読み返してみてください。それでもわからなければ,近くの弁護士に聞いてみてください。


どなたか存じ上げませんが,このような内容をどうどうと講義することから,司法書士さんの代理権を封じようとする人たちが増えるのだと思います。私のまわりの司法書士さんは,みんな優秀ですよ。

投稿: 大丈夫? | 2012年7月 9日 (月) 09時35分

ご意見ありがとうございます。冒頭に書いてありますように、講義は9月ですから勉強させていただきます。

投稿: 古橋清二 | 2012年7月10日 (火) 07時38分

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